アンリ・ルソー(Henri Rousseau)[1844-1910]は、フランスの画家。
結構、謎に包まれている画家で、未だに良くわからないことも多いし、実際行動も意味不明だったりします。簡単に言えば変な人。
結婚は2回。そして、刑務所にも2回入っている。一度は窃盗。一度は銀行詐欺。そして名誉回復のために軍隊に入るが、ずっと二等兵のまま。
とても貧乏でもあった。どれくらい貧乏かと言うと、死後は共同墓地へ埋葬されたくらい。これを憐れんだ
ピカソたちが墓を作ってあげたりした。
いつ絵を描きだしたかも、はっきりとはしていない。しっかりと描きだしたのは、だいたい40歳くらいらしい。
ただ、当時にしてはとても奇妙な絵だったため、嘲笑されまくった。さんざん馬鹿にされたのである。ある評論家は「ルソー氏は、目を閉じ、足で描く」と評した。
虚言家でもあり、
サロンに出品するが落選したのに、インタヴュー(手紙?)では、入選した、と嘘をついた。また、作品に何度も描かれる熱帯(メキシコ)は、ルソーが行ったことがあるように誤解されているかもしれない。実際、ルソー自身もメキシコへ行ったことがある、と言っているが、これまた嘘で、実際はメキシコなど行ったことがないのである。
今日のルソーがあるのは、無審査で誰でも出品できた「アンデパンダン展(独立美術展)」があったからで、これにルソーは出品を続けた。
ルソーを最初に評価したのは、詩人・小説家のアルフレッド・ジャリ。この人も変人で、道でタバコの火を貸してと頼まれた際、いいよと言ってピストルを発砲した。
ルソーが評価し始められるのは、1907年頃で、評価したのはピカソや
アポリネールなどである。死んだのが1910年なので、評価されない時期がだいぶ長かった。
他にも、
フリーメイソンのメンバーだったり、音楽の才能もあり曲を描いたり、バイオリンがうまかったり、戯曲も作ったり、と、なかなか面白い人。
さて、ルソーのことの話ばかりになってしまったが、展覧会はというと、「ルソー展」ということではなく、「ルソーとルソーに関係する画家、及びルソーから影響を受けた日本の画家の展覧会」ということなら、なかなか良い展覧会だとは思う。ルソーや他の素朴派の画家、ルソーから影響を受けた日本の画家、ルソーから影響を受けた日本の写真家、と幅広く鑑賞できるからだ。
ただ、ルソーの作品は少なく、ルソーを観たい、ということなら もっと! と思ってしまう。まぁ、多くの人がルソーの作品を見たいだろうから、そういう意味では正直不満だろう。
でも、ルソーはいいな、と本当に思った。少ない作品ながらも、そのことは充分わかった。最初の部屋がルソーなのだが、僕は興奮してしまった。
ルソーの作品は、「静けさ」に満ちている。特に、町や人物を描いたのはそうだ。なんというか、停止した感じなのだ。
ただしそこに、何か「妖気」のようなものが漂い、その不思議な空気は動いているのだ。
今回はルソーの作品数が少ないので、確認しづらいかもしれないが、ルソー作品のもう1つの大きな特徴は「正面性」である。
(この作品がわかりやすいかな→)(注:これは展覧会には出てない。最初の画像に写っている《熱帯風景、オレンジの森の猿たち》でもわかるだろう↑)
ルソーの絵は、物や人物や動物が、だいたい正面を向いている(もしくは真横)。葉っぱなども、とことん正面向きの葉や植物である。
このことが、不思議な画面の停止感を生み出す要素の1つにもなっているだろう。
ただ、正面から描いた最大の理由は、「描こうとする物を真正面からとらえていく」ということにあった。このことで、本当にモチーフを正面から描いたのだ。
偏見がないのだ。「自分」と「世界」があるだけで、そこに偏見も何もない。だから、子供を描いてもかわいくない。ちょっと無気味な感じだったりする。子供は可愛い、という偏見もないのだから。
描こうとする物を正面からとらえようと向かっていくわけだが、「逆に、描いた物がルソーをとらえてはなさない」境地にまでいく。ルソーはその中を生きる。対象がルソーをとらえてくるのだ。
こういったことが、絵の世界そのものを生きてしまう、と言われることに繋がる。
絵の世界を生きた、ということについてこんなエピソードがある。
熱帯を描いた作品が並べてあるアトリエで、ルソーが人と話していた時、ルソーは「ここは暑苦しいからね」と言いながら窓を開けたらしい。
そんな、興味深いルソー。是非、もっと作品を観たいな、と思った。
ルソーが魅力的な画家だ、ということは分かると思うし、ルソー関連というとらえかたなら観るものは多いので、そういうことでなら行ってみるといいと思う展覧会。
ただし、出ているルソーの作品が少ないんだから、せめて質の高いものかと言うと、僕には全てがそうとは思えなかった、と付け加える。でも、それでもすごく刺激を受けた、とも付け加える(笑)。
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preludioさんの記事にTB--
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栗坊さんの記事にTB--
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駒込こまさんの記事にTB--
(2006/10/28)
[メモ]
ルソーの見た夢、ルソーに見る夢 アンリ・ルソーと素朴派、ルソーに魅せられた日本人美術家たち@
世田谷美術館 (世田谷区)
12月10日まで