そして、金曜の展覧会ツアーの最後は、これ。『ビル・ヴィオラ』展。
ビル・ヴィオラ(Bill Viola)[1951-]は、映像作品を作るアーティスト。ニューヨーク出身。70年代のヴィデオ・アートが始まった頃から作り始めた人。80年からは日本に1年半滞在した。『はつゆめ(Hatsu-Yume)』とは、その時の作品。ただこれは、火曜に行われる特別なイベントに申し込まないと観れないようで、僕は観ていない。56分間の作品。
彼の作品は、授業で、『THE REFRECTING POOL』と『aciant of day』を見たことがあったけれど、それ以外は初めて。
美術館のサイトで展覧会の紹介を見て、非常に気になっていた。
今回の展覧会はアジアで初の大規模な個展らしい。
作品は全て映像作品である。ただ映像が画面に映ってそれを見る、というものではない。作品にもよるが、とても巨大なスクリーン、そして大きな音響、それによって生み出される空間。スローモーション、暗闇、などなど、それらが非常に効果的になっている。
どういうことか、数点について詳しく書いてみます。
《クロッシング》
大きめの部屋に入ると中は真っ暗で、スクリーンが1つだけ部屋の中央にある。中央に、である。そして、このスクリーンは高さ4メートル。超巨大だ。この迫力はすごい。
見ていると、1人の男がこちらへまっすぐ歩いてくる。映像はスローモーションである。ゆっくりと。しばらくずっとその歩いてくるシーンで、かなり近くまで男が歩いてくると、立ち止まった。
するとどうだ、足元から炎が現れて、徐々に男を包んで行く。男が燃え始めた。もちろんこれもスローモーションで映される。ゆっくりと炎が動く。そして、音響は燃えさかる音が大きく流れる。
ふと、画面の裏側へ回ると、裏側にも映像が映っていた。1枚のスクリーンが部屋の中央にあって、両面に同時に映像が映っているのだ。こちらでは同じく男が立っているのだが、炎ではなく大量の水が頭上から降り注いでいる。こちら側だと、水が暴れる音が聞こえる。
煌煌として上昇する炎と、真っ直ぐに落下してくる水。それだけが、この暗い部屋に映されている。そして、大きな音が響く。
炎と水、対立するものだ。また、炎は上へと燃えさかり、水は落下する。上昇運動と下降運動、これも対立するものだ。
対立要素が、1つの作品に収められている。非常に興味深い作品。
それにしても、この暗い部屋で、こういった映像を巨大なスクリーンで見て、大きな音響に包まれると、まるで重力が狂ったような感覚になる。頭が不思議な感覚を受ける。
「場の表出」である。
《ベール》
これは、先程より狭い部屋。やはり真っ暗である。部屋の両サイドから向かい合うように映像が投影されている。そして、先程の部屋と同じように、そのプロジェクターとプロジェクターの間にもちろんスクリーンがあるのだが、これが特殊。どういうことかと言うと、9枚のごく薄い幕(?)のようなものが一定の狭い間隔で並べてあるのである。そこに、両サイドから映像が映るのだが、スクリーンの1枚1枚は薄いので、映像は奥へになるにつれ不鮮明になりながら、複数の幕へも映るのだ。
映像の内容よりも、僕はこの暗い部屋でのこういった光景が、とても神秘的で引き込まれてしまった。
何と言うか、不思議な奥行きが生まれ、映像は本来平面なのに、この奥行きがあることで、まるで映像の霧のような空間となっていた。
ちなみに映っている映像は、暗い岩も転がっている草原のようなところを、1人の人が歩いているというもの。やはり、片側からは男、片側は女、というような、不思議な見せ方であった。
この暗い映像が、ボヤッと9枚の幕に映って宙に浮いているところは、なんとも幻想的だった。
《ストッピング・マインド》
これは、部屋の中央を4つのスクリーンが宙に浮いた状態で正方形に囲んでいる。これも巨大なスクリーンだ。この内側に入って観るわけです(もちろん映像は内側に映る)。
この作品は、映像はあんま面白くなかった(苦笑)。一瞬高速で風景が映って止まる、そして停止した映像はひどくブレている(速度によって)。それの繰り返し。
ただ、このスクリーンに囲まれた中のピッタリ中央に立った時だけ、まるで頭の中から聞こえるかのように、早口の囁きが聞こえるのです。本当に自分だけに耳元で囁かれている感じ。頭の中から聞こえてくるような。これが面白かった。ピンポイントの音の効果。
たぶん、ほとんどの人は気づいていないだろう。
もう1つだけ書きましょう。
《ミレニアムの5天使》
これは、とても広い部屋の中に入ると真っ暗で、部屋の壁に巨大なスクリーンがある。部屋に入ると壁のスクリーンに囲まれる。全部で5つのスクリーンなのだけれど、それは部屋がただの長方形ではないからです。
とにかく、この暗い部屋で壁という壁が巨大なスクリーンで、しかも映っている映像がこれら→
もう異空間でした。
これは、水へ飛び込んだところを、スローモーションで逆再生したものらしい。
気泡の動きや重力のことなど、当たり前の動きがしみ込んでいる我々は、こういった映像を見ると、不思議な感覚になる。特にスローモーションだから尚更だ。
溺死というか沈んで溺れたら死ぬわけですが、そのことを逆再生することによって、逆に「誕生」を表現しているのがこの作品らしい。
なるほど。沢山の気泡が徐々に体に集まってきて、すっと人が出現したり消えたりする様は、たしかに再生や誕生のような感じを思わせる。
兎に角、”流れ上がる”水や、気泡が集まって消える様、不思議な人体の動きが、暗い水中にライトが当たってる中で行われるのは神秘的です。スローモーションなので、動きが良くわかる。
こういった人間の出現は5つの画面で次々に映るのではない。程よく焦らして、ふっとどこか1つの画面で人が現れてきたり、または2つくらいで同時に別の角度から映ったりと、そのゆったりとした感じが良い。
この人の出現や水の動きに合わせて、やはり大きな音が響き渡ります。
というように書いてきましたが、ここに書いた作品は、空間を生んでいるというか、「場」が生まれていました。
まぁ正直、中には僕は退屈な作品もあったから、全部が全部というわけではないけれど、それでも興味深く観ることができると思う。
対立要素なんかは、ヴィオラに数作あるようだし、1作にそういった対立物を収めるというのは錬金術的発想かな、などと考えてみたりして面白かった。
大きなものは、ちょっと感覚が狂うような場が生まれているし、面白い、というかこの場合は面白い体験ができる、と言った方が正しいのだろうか。
不思議な世界を観る 体の奥底で理解する
そんな感じ。
普段観るような展覧会とは、明らかに違う展示。
今までなかった経験、刺激、を得たいなら観てみるといいと思う。
おすすめです。
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preludioさんの記事にTB--
[メモ]
ビル・ヴィオラ:はつゆめ
@森美術館 (六本木ヒルズ)
2007年1月8日まで
巡回:→兵庫県立美術館