エミリー・カーメ・ウングワレー(Emily Kame Kngwarreye)[1910頃-1996]は、オーストラリアのアボリジニの画家。
1977年からろうけつ染めというものの制作を開始。その後、1988年くらいから、キャンバスにアクリル絵具で絵を描くようになる。その後、亡くなるまでの8年間で、3000点以上の作品を描いた。
オーストラリアのユートピアという一帯で生涯を送り、ユートピアに隣接するアルハルクラという地域を故郷とした。作品は、アボリジニ独特の民族的な絵柄で、世界中で個展が開かれ、97年にはヴェネツィア・ビエンナーレのオーストラリア代表に選ばれた。
今回の展覧会は、エミリーの作品を初めて日本で紹介したものである。
作品は年代順かつ画風ごとに並べられ、エミリーの作品の全体を観ることができる。
作品は、線や点が集積して画面を埋め尽くしたものがほとんどで、抽象画のようだ。
エミリー自身はイーゼルに立てかけたりせず、キャンバスを地面において周囲から描いていくという手法をとったらしい。よって、作品には天地が存在せず、図版や会場の展示のされ方は、必ずしも一致しない。そのへんは、美術館側のセンスに一任されるらしい。縦構図か横構図かすらも、決まっていないのだ。
展示室へ入ると、最初は初期の作品を見ることになる。
この時期の作品には、色濃く民族的風合いが見て取れる。
もともとエミリーは、部族の儀礼などのため、ボディ・ペインティングや砂絵を生活の一環として描いてきた。それが、キャンバスに描く機会を得た時に、そのまま画面に表れたといった感じである。
アボリジニだよな、と思わざるを得ない図柄が画面いっぱいに広がる。
祭りや土俗的なものを感じさせる作品たち。
それが、画家としてのスタートだったようだ。
その後、作風が変わり始める。
点描がメインのもの。非常にカラフルなもの。直線的な線のみで構成されたもの。編み目のように入り組んだ線で構成されたもの。そして、最晩年の、刷毛でささっと塗ったようなもの。
特に、点描がメインの作品と、カラフルな色が埋め尽くす作品が、とても良かった。それまでの民族的な匂いの強い作品とは違い、美術として素晴らしいと思ったのだ。
しかも、とても大きい作品が多く、相当な迫力がある。
彼女は、美術教育は全く受けていない。世間のアートシーンもほとんど知らなかったようだ。
恐らく、自作についても僕らの言う「美術」「芸術」という概念は無かったのではないかと思う。
そんなエミリーが描いた作品に芸術的価値を観る我々文明人。この辺は、アートの持つ面白さの1つだろう。
作品全体は、ぶれること無く1つの方向を向いている。
とことん自分のコミュニティや文化、土地を讃美する精神に貫かれている。展示を観ていると、このことを本当に強烈に感じる。
画風が変わろうと、描かれているものはユートピアであり、どんなに自然を敬っていることか。
出自、が持つ影響は本当に大きいと、感じざるを得ない。
季節ごとに移ろう自然の色。
ヤムイモが地中に張る根。畑の土のひび割れ。
全てはモチーフとなって、作品に表れてくる。
絵画や芸術の持つ、根源的な強さ。
文脈や技術が不要になる瞬間。
言語化できない感覚。
色んなものが体感できるでしょう。
展示構成も非常に観易く、ゆったりとしたものだったので良かった。
こういった作品に触れるのも良いと思います。興味があれば是非観てみてください。
帰りは、最初こそ小雨だったが、途中、雨は上がった。
雨上がりの午後特有のキラキラとした光が、車窓から射し込んだ。それだけで、満足感は何割増かになる。
そうだ、ここにはここの自然がある。
[メモ]
エミリー・ウングワレー展 アボリジニが生んだ天才画家@
国立新美術館 (六本木)
7月28日まで