レオナール・フジタ(Lèonard Foujita)(藤田嗣治(つぐはる))[1886-1968]は画家。
東京美術学校に入学し黒田清輝(せいき)のもとで油画を学ぶが、まったく馬が合わず、結構嫌われたようだ。その後、当時の文展に3度出品も全回落選。嫌気がさして、1913年パリの地を踏む。
ピカソのアトリエでルソーの作品を見て、脳天を揺さぶられるような強い衝撃を受けた。今まで学んできたアカデミックな教育は何の役にも立たない、と思い知らされ、芸術とはかくも自由なものなのか、と藤田芸術の本当のスタートが切られた。
日本へ帰国し例の「
戦争画」を描きまくる時代がくる。圧倒的な筆力で描かれた戦争画はプロパガンダとして多いに力を発揮したが、終戦後、藤田に戦犯の容疑がかけられる事件が起こり、日本との決別。再びフランスへ渡った。
フランス国籍を獲得し、洗礼を受け、改名をし、藤田嗣治からレオナール・フジタとなったのである
1913年にパリへ渡って、エコール・ド・パリの中心人物の1人として、モディリアーニやシャガール、ピカソらと同じレベルで活躍した、なんとも素晴らしい日本の画家。本格的にフランスで成功した初めての日本人だろう。
実際とても成功した画家で、作品もどんどん売れ、注文も凄まじかったらしい。レジョン・ド・ヌール勲章も授章しているし、フランス大統領にも謁見している。洗礼の儀式には、多数のメディアが殺到した。
藤田嗣治は記述するのが大変な画家の一人で、本気で書こうとすると、レビューにならない。
以前書いた記事を参照してください。
・かなり長めの以前の展覧会は
『藤田嗣治展』。
・戦争画にまつわる話は、中村先生の講演会
『藤田嗣治の生涯と作品』で。
両記事を参照して、補完していただければと。
さて、展覧会ですが、すごく良かったです。
会場へ入ると、初期の水彩画や油彩などがある。最初の渡仏で刺激を受けまくっていた頃の作品。
良い!あの色。この段階で、本当に味のある色彩が水彩で描かれていて、見入ってしまった。
他の画家の影響も顕著に感じられ、それも面白い。モディリアーニ風の人物像。ルソー風の風景画。知っていれば、ははん、となる。こういった作品も充分に素敵でした。
あとは、おなじみの女性像だろう。フジタの作品は、何度見ても、線が本当に美しい。ほっっそいですよ。この辺は逆にパリを驚かせたことだろう。
そして、フジタの代名詞である「素晴らしき乳白色」。深い深い白の世界が展開される。
今回の展覧会の目玉は、1928年に制作された4枚の大作だ。
これは、1929年の最後の展示から行方不明になり、1992年に発見された。フランス郊外の倉庫に、丸めてロール状に保管されてあるのが発見され、広げてみると、カビ、剥落、などで、本当に悲惨な状態だったらしい。フランスの国家財産に認定され、国を挙げて6年がかりで修復、80年経ってに今回の展示に至っている。
3メートル×3メートルの大作が2枚1組で計2組。つまり4枚。《構図》と呼ばれる1組と《闘争》と呼ばれる1組。
大迫力というと、馬鹿っぽい感想だが、実際大迫力。
今回は、下絵も多く出ていて、完成前の準備段階を見られる。このデッサンもなかなか見応えがあり、良かった。
他には、最晩年に取り組んだ礼拝堂に関する展示。
フジタは教会の設計段階から、内部の壁画まで、すべてを1人で作り、完成とともに、まるで精根尽き果てたかのように死んでいく。
この教会が、「ノートル=ダム・ド・ラ・ペ(平和の聖母礼拝堂)」。
設計のための、ちっちゃな模型なども展示されていて、とても可愛かった。
ステンドグラスなども、再現されている。
晩年の宗教画も良い。色んな時代を駆け抜けて、最終的にフランス人になり、辿り着いた境地。
人を惹き付けるに充分です。
フジタの絵は、日本特有の余白だったり、一方で西洋的な“密”だったりと、両方があるのだなと、今回気づく。
両方の意味で、視線をすら楽しませる。
田舎の捨てられていた農家を改装し、終の住処となった「メゾン=アトリエ・フジタ」の内部の再現などもあり、展覧会自体が魅力的で、とても面白い構成になっている。
正直、見に行く前は、以前のあの大展覧会を見ているので、それと比べたらどうってことない展覧会なのだろう、と思っていたのだけれど、全然そんなことはない。
今回は、戦争画が云々されず(ほぼ全く触れられていない)、肩の力を抜いて観ることが出来る。
展示の構成も、作品も、とても楽しめて、僕としては大ヒットとなった。
まずは見に行きたまえ!!と言いたいくらいにオススメです。
ピカソらと同時代を生き、同時代の空気を吸い、遠いフランスで活躍した画家。国や時代に翻弄されながらも、本当に良い作品を沢山残して…。
思うに、没している画家で、しっかりと海外での評価があり、所謂“巨匠”たる数少ない日本の画家なのではないかと思う(フランス人だけど)。これこそ、本当の評価だろう。
またしても、良いエネルギーをもらいました。
それぞれの時代の作風が、それぞれ素晴らしい。ユーモアもある描写があったりと、本当に飽きない。
今作品を前にして、国や時代を超え、様々な思いを感じながら広大などこかへと魂が飛翔するような、不思議な感覚。
ある時は裸婦、ある時は猫、ある時は祈り、と、人間レオナール・フジタを作品を通して見た。
[メモ]
没後40年 レオナール・フジタ展
@
上野の森美術館 (上野)
2009年1月18日まで
巡回:
→福岡市美術館→せんだいメディアテーク(おお!仙台でも観よっと♪)